私も「口腔機能低下症」?!

「『口腔機能低下症』って何?」
漢字だけ見てもイメージがつかないと思います。
日々の診療で患者さんの「口腔機能低下」に危機感を覚えた先生は、どうしても皆さんに知ってほしいと強く願っています。
少しでも共感していただけるよう、体験レポートをいたします!
まずは、口腔機能低下症についてご説明します。
口腔機能低下症とは?
口腔機能低下症は、加齢だけでなく、疾患や障害など様々な要因によって、口腔の機能が複合的に低下している疾患(しっかん:病気)です。
放置しておくと咀嚼障害(そしゃくしょうがい:食べ物をうまく噛むことが困難になる状態)、摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい:食べ物や飲み物を口に取り込んでから胃に送り込むまでの一連の動作がうまくいかなくなる状態)など口腔の機能障害を引き起こし、また、低栄養やフレイル、サルコペニアを進展させるなど全身の健康を損なう。
[日本歯科医学会.口腔機能低下症に関する基本的な考え方(令和6年3月)]
※口腔(こうくう)
口腔とは、歯および歯周組織、舌、唾液腺で構成されている。
発音機能、食物の咀嚼・嚥下(そしゃく・えんげ)をする役割を担います。
※フレイル
フレイルは、要介護状態に至る前段階。
身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する。
[一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会 「フレイル診療ガイド」]
※サルコペニア
高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力低下のこと。身体機能(歩行速度など)の低下を伴う事があり、要介護状態や転倒、骨折のリスクが高くなる。
「オーラルフレイル」ってご存知ですか?
わずかなむせや食べこぼし、滑舌の低下といった口腔機能が低下した状態を示します。
口の機能の健常な状態(いわゆる『健口』)と『口の機能低下』との間にあり、改善も可能な状態です。

※日本老年歯科医学会ホームページ 「口腔機能低下症」を診断しましょう 一部改変
お口の衰えは、将来の健康状態低下のリスクを高めます!

50歳以上の当てはまる項目がある方、口腔機能低下症の検査をしてみませんか?
(保険適応です。)

「口腔機能低下症」の検査、体験レポート!
目次
1.「検査項目」
- ①口腔衛生状態不良(舌の視診)
ベロが白いかどうか?チェック - ②口腔乾燥
口腔乾燥症(ドライマウス)チェック - ③咬合力低下(残存歯数)
「噛む力」チェック(咬合力検査:こうごうりょ くけんさ) - ④低舌圧
ベロの力(舌圧:ぜつあつ) - ⑤舌口唇運動機能低下
唇の力(口唇運動:こうしんうんどう)チェック - ⑥嚥下機能低下(問診表)
2. どうして「口腔機能低下症治療」に力を入れて いる?
3. 実際どんなトレーニングをするの?
4.「ブクブク」できない子ども
5. 自分のためでもあり、家族のためでもある
6. 関連サイト
7. 関連動画
1. 検査項目
①口腔衛生状態不良(舌の視診)
ベロが白いかどうか?チェック

舌に付いている「舌苔(ぜったい)」の量を測定します。
(舌に付く細菌のかたまり、食べかすなど、お口の中が不潔になると「舌苔」が付き、口臭や味覚障害の原因になります。お口の乾燥する人は舌苔が増えやすいです。)
ー実はベロ、結構白くて心配で・・・ドキドキしてきました。

そうだったんですね。
ベロの表面の「舌苔」のスコアを測ります。
ベロを表面を9分割して、チェックして何パーセントあるかをやります。
判定基準が50%以上ですと、要注意となります。




(診る)真ん中の方、確かに白いですね。
ベロの中央の2と5の部分は「2」をつけさせていただきます。
舌尖(ぜつせん)は「1」です。
側面は「0」で大丈夫です。
これでまず1個目の検査が終わりました。

ー「ぜつせん」ってなんですか?

ぜつせん(舌尖)はベロの先っぽ、付け根は舌根(ぜっこん)といいます。
割とベロの真ん中と、付け根の中心についています。
ひどい方だと、側面も真っ白になっている方もいます。
ベロの表面は、舌乳頭(ぜつにゅうとう)という物〔味を感じる「味蕾(みらい)」が存在する。〕というものがポコポコと出っ張っているので、そこに細菌が積もり積もると舌苔・・・白い苔(こけ)が生えたみたいになっちゃうんですね。
うがいだけでは落とすことができないんです。
「ベロ磨きのブラシ」がありますので、皆さんにはそれで磨くようにしていただいているんです。

②口腔乾燥
口腔乾燥症(ドライマウス)のチェック



2つめは、口腔乾燥症のチェックです。
ベロの先にこの器具を押し付けると数値が出てきます。
判断基準が「27」以下だと、口腔乾燥症だという判断基準です。
自覚的には、どうでしょうか?
ー朝起きた時の口臭が気になっていた時がありました。

寝ているときに乾燥しているのかもしれませんね、口呼吸とか。
あと唾液の質が「サラサラ」じゃなく「ネバっとした感じ」になってきている可能性もあります。
先ほどの「舌苔」も口臭の原因になるんですよ。
扇型の「舌ブラシ」と、刺激のあまりない「ペースト」で磨きます。
ー歯磨き粉とは別なんですか?

歯磨き粉は別です。
歯磨き粉だとちょっと刺激が強くベロが荒れてしまったりするので、刺激の少ないジェル状のものがあります。
市販でも売っているんです。(ライオンの舌ブラシ)


ベロの先の方3か所ほど、検査します。
ベロを下から押さえて、この機械をぐっと押し付けます。



いいですね。
「29.6」なのでクリアしています。

③咬合力低下(残存歯数)
「噛む力」チェック(咬合力検査:こうごうりょくけんさ)




ここ(青いスポンジの部分)をギューッと噛みます。
N(ニュートン)という単位で計測します。
KGKデンチャーの方で噛む力が弱い方は「リハビリ前の数値」「リハビリ中の数値」「リハビリ後の数値」「ファイナルの数値」と取り、噛む力が回復しているか検査します。
おおよそ400N以上だとOKです。
お口の中に入れまして、思いっきりギューッと噛むだけです。
はいどうぞ、ギュー。




おお、噛む力が強い!いい結果が出てよかったです!
歯ぎしり、食いしばりをしていないか心配ですが、この咬合力(こうごうりょく)は問題ないです。
歯や歯を支える骨を破壊す方向に行かないように、歯ぎしり食いしばりを予防することも大事です。
実は先日、咬合力が40Nだった方がいます。
ー40?!

初めて受診された時、総義歯(そうぎし:総入れ歯)で入れ歯が合わず、特に下の入れ歯は痛かったから入れず、ずっと上の義歯と下の歯ぐきで食べていた方。
ほぼ噛まなくても食べられる物ばかり食べていたんです。
下顎(かがく:下のアゴ)の義歯を持って来てもらって、頑張って噛んで40Nだったんです。
あまりにも咬合力が弱く、噛み合わせが不安定だったので、ご本人やご家族のご希望でKGKシステムデンチャーになり、現在治療中です。
④低舌圧
ベロの力(舌圧:ぜつあつ)

今度は舌圧(ぜつあつ)です。
舌圧が弱い方は多いんです。
上アゴをベロだけでギューッとします。
スティックを前歯を軽く噛んで、ベロだけで押していきます。
どうぞ、ギューッと・・・結構しんどくないですか?



ー思ったより大変です。(汗)

こちら、30kPa以上が正常。
舌圧はちょっと弱い方が多いです。
ー年と共に、ベロの力が落ちて来る?

落ちてくるんですよ。
だんだんベロの力が弱ってくる方が多いです。
飲み込み方、発音、呼吸に影響するので、力をキープできるようにベロのトレーニングは必要かもしれないですね。
誤嚥(ごえん)を防ぐためにも大事なことなんです。
⑤舌口唇運動機能低下
唇の力(口唇運動:こうしんうんどう)チェック

今度は「舌口唇運動機能低下」(ぜつこうしんうんどうきのうていか)の検査を発音していただき検査します。
「ぱ」「た」「か」を何度も「ぱぱぱぱぱぱ、たたたたたた、かかかかかか」というふうにそれぞれ言ってもらいます。
アプリがございまして、アプリに向かって発音して何回言えたか?をカウントします。



マイクに向かって「た」と言ってもらえますか?
3.2.1でスタートになります。




1秒で5回以上でOKです。
ー最初の1~2秒はいいんですけれど、途中でもつれてきました。(汗)※この前に「パ」「タ」をやっています。

インストールしてお家でトレーニングできますよ。
舌圧が弱いとむせてしまう、嚥下機能(えんげきのう:ゴックンと飲み込むときの力)が弱くなり、誤嚥を起こしやすくなる、薬やサプリメントがノドにつかえる、飲みにくくなったという方、多いです。


あと口輪筋(こうりんきん:口の周りの筋肉)の検査もします。
「2」という数字まで引っ張れたら大丈夫です。




合わない義歯の方はすぐに外れちゃう方が多いです、口唇(こうしん)の力が弱いので。
口輪筋が衰えるとすぐにスポンと抜けます。
(結果を見て)「2」でしたね。

ー最近「ポカン口(口呼吸)」が問題になっていますが、お子さんは大丈夫なんですか?

口呼吸でお口がポカンな子は、口輪筋が弱い子が多いです。
検査をすると、口輪筋が弱くてすぐにスポンと抜け、キープできないんです。
プレオルソを使っている子は、プレオルソを口の中に入れてお口をしっかり閉じているだけで、舌圧だけでなく、口輪筋の力がついてくるのでだいぶ改善します。
検査をして、口輪筋が弱い子のお母様にお見せすると「わ、こんなに弱いんだ」と驚くし、本人も驚くくらい筋肉が弱いんです。
でもプレオルソを頑張っている子は、どんどん数値が上がっていきます。
ーさっきの「パタカラ」は、毎日練習すると効果はありますか?

はい!毎日練習すると、(パタカラを)言えるようになります。
最初はショックを受けるくらい出来ないんですけれど、上手に言えるようになります。
ー何歳くらいから「口の筋肉の低下」が起きてきます?

40歳以降になると、だんだんと舌圧が下がってくる方が多いです。
それに気づかずに生活して、発音もふつうにお話しができちゃうから大丈夫と思っていても、舌圧が弱いと、ベロを使うような発音が実は出来なくなってくるんですよ、意外と。
出来なくなった事に気づけて、舌圧をアップさせるようなトレーニングが出来る、とといいんですが。
ー気が付くタイミング・・・ないですね。

こういう検査って今まであまりメジャーじゃなかったですし、ご存知でない方が多いので。
実際やってみると自信のある方でも「え~ショック!」となります。
ーしゃべっていればいいという問題でもない?

意外と口を動かさず、ベロを使わずにしゃべっているんですよね。
口の動きやベロの動きなど、日本人は特に大げさに口を動かさなくても、発音できる・・・口角を上に「ニッ」と上げる動きが少ない=口輪筋(こうりんきん)という口の周りの筋肉が弱いです。
⑥嚥下機能低下(問診表)
問診

ここから問診をします。
こちらは嚥下が正常に出来ているか?=ゴックンが出来ているか?の問診表です。

Q1 肺炎と診断されたことはある?
Q2 やせてきましたか?
Q3 物が飲みにくいと感じることがありますか?
Q4 食事中にむせることがありますか?
Q5 お茶を飲むときにむせることがありますか?
Q6 食事中や食後、それ以外のときにもノドがゴロゴロすることがありますか?
Q7 ノドに食べ物が残る感じがすることがありますか?
Q8 食べるのが遅くなりましたか?
Q9 硬いものが食べにくくなりましたか?
Q10 口から食べ物がこぼれることがありますか?
Q11 口に食べるものが残ることがありますか?
Q12 食物や酸っぱい液が胃からのどに戻ってくることがありますか?
Q13 胸に食べ物が残ったり、詰まった感じがすることがありますか?
Q14 夜、咳で眠れなかったり目覚めることがありますか?
Q15 声がかすれてきましたか?

該当項目が3以上だと「口腔機能低下症」です。
(左の用紙の結果を見て)ちょっとギリギリですね。
舌圧が弱いと、パタカラが出来ないですし、飲み込みも舌圧と関係あります。

ーそもそも、どうしてそんなにベロが大事なのでしょうか?

(YouTubeを立ち上げて)これは食べ物を入れた時の動きです。
ベロの動きをみてもらうと、飲み込み時にベロを上あごにくっつけるんですよ。(ぜひぜひ動画を見てください)

食べ物を奥に流し込むには、ベロが「ベルトコンベア」のように食べ物をノドに流し込むんです。
何でこのベロの動きが大事かというと、こっちが気管(左)でこっちが食道(右)、ここに喉頭蓋(こうとうがい)という「フタ」があるんです。(下記図参照)
喉頭蓋は、食べ物が気管に行かないよう「フタ」をしてくれるんですよ。
ベロを上顎に押し付けて嚥下(えんげ:飲み込む)しないと、フタが気管をふさぐように下がらないから、ベロをうまく使わないで飲み込む人は気管へのの経路にフタをされずに開いたままで飲み込む→飲み物や食べ物の一部が気管にも入り、誤嚥やむせの原因になっちゃうんですよ。
舌圧が弱く、ベロが下に下がった状態で飲み込むと蓋が閉じないままゴックンすることになるので、ベロを使うことが大事なんです。
義歯(ぎし:入れ歯)の方で、噛まずに食べられるような物を流し込む方は、舌圧が弱くベロを使っていない方が多いです。

ーそうしたらむせますよね?

むせます、むせながら召し上がっています。
「お水を飲んでください」というと、上を向いてお水を流し込むように飲むんです。
「じゃあ、下向いて飲んでください」とやっていただくと、舌圧が弱いからノドの奥に送り込めない。
ベロを思い切り上顎に押し付けて飲み込むと、ノドの筋肉が収縮して、しっかりと正しく飲み込むことができるんですけど、それが出来ない。
なのでこの舌圧が大事なんです。
そして、口呼吸・舌圧が弱い方が増えてきていて・・・年齢を重ねるとさらに弱くなる。
発音・滑舌も悪くなったり、飲み込みが悪くなったり。

ースマホを見ながらご飯を食べていても、人間のベロとノドはその一連の動作を無意識にやってくれているんですね・・・えらい。

そうなんですよ。
喉頭蓋がフタをして気管に食べ物や飲み物が行かないようにする・・・よくできているんです、人間って。
正しい姿勢・頭の角度で飲み込む・・・両足をしっかりついて姿勢よく座って、やや下に頭を傾けてしっかり飲み込むということを意識する必要もあります。
日本人の死因の第6位でもある、誤嚥性肺炎、怖いですよね。
入院中に寝たきりになったりすると、胃ろうになる事が多いですよね。
食べる喜びもなくなるし、味もないじゃないですか。
「フタ(喉頭蓋)が正しく閉まって飲み込む、そのためにはベロの力が大事だ」ということを分かってない方がほとんどです。
舌圧を強くするためのトレーニングに「ペコぱんだ」という装置もありまして、気軽にできるので割と人気があります。
柔らかい・やや柔らかい・普通と硬さの違いがありまして、口の中に入れてベロで押すだけなんです。
これが柔らかいタイプです。



ー(触ってみる)結構固い!

段階を追ってやるんですけれど、上アゴにこれを載せます。
ベロで押すだけなんですが、これが結構難しい。
リズムよくペコぺコと30回くらいやらないといけないんです。
ー1回や2回じゃダメなんですね。(汗)

ベロを動かす筋肉が「筋肉痛」になります。
ーベロってどこまでがベロなんですか?(カメラマン:牛タンって、長いですよね)

ベロには舌骨(ぜっこつ)という骨があるんですが、首の中心、下顎の少し下辺りに宙ぶらりんでベロにくっついているだけなので、ベロが下がる人は舌骨も下がっているんです。
舌骨は、他の骨とつながっておらず、筋肉や靭帯で支えられています。
嚥下運動に重要な影響を与えているといわれています。
ベロの位置が下がっている人は、寝る時に気管を圧迫するので「無呼吸症候群」になるリスクが高くなります。
ペコぱんだをやると、ベロを引き上げる筋肉が強くなり、舌の筋肉を強くすれば、飲み込みを確実にしやすくなります。
ベロは吸盤のように上アゴを吸うイメージ・・・
ベロをグッと上顎に押し付けたまま、飲み込むと喉の飲み込む筋肉がしっかり動き、喉頭蓋が閉じるので、大きいサプリメントが安心して飲めるようになり、むせなくなります。(笑)

ー舌骨ってどこにもついてない骨なんですね。何も支えがないから、自分の筋肉で支えるしかないんですね。

そうなんですよ、正しい位置に舌骨をキープできるような筋肉をつける。
それがなかなか難しいですよね。
舌圧を強くしたい方は、ペコぱんだお勧めです。
酒井さん、いくらだっけ?(とスタッフに聞く)
(酒井さん)1980円です。
ちょっと高いですけれど、ずっと使っていただけるし、いいと思います。
子供用もあります。
柔らかく煮た里芋を、舌で上顎に押し付けてつぶしてみるって方法もあります。
2. どうして「口腔機能低下症」の治療にを力入れている?
ーどういうキッカケで「口腔機能低下症」の検査をするようになったんですか?

「オーラルフレイル※」を早期に発見し、予防や改善をめざす。
その為に「口腔機能低下症」の検査をして「数値化」して理解していただく・・・そこなんですよね。
※口に関する些細な衰えを放置したり適切な対応を行わないままにしたことで、口の機能低下、食べる機能障害、心身機能低下までつながる負の連鎖が生じてしまうことに対して、警鐘を鳴らした概念
ー数値化は、分かりやすいですね。(いただいた案内の紙を見て)字が大きくて親切。


自分が見えないから(笑)。
「感覚」でなくて「数値化」して「目に見える化」が大事。
そして、機能回復のトレーニングをして、これらを管理できる。
ー管理とはどういうことでしょうか?

検査をして次に来ていただいたときに、「改善策」を提案します。
その後、うまくいっているかを定期的に「確認」をしていく。
「もうこれで大丈夫ですよ」というところまで診ていく。
なので、1回でおしまいじゃなくて検査をした後に「MFT(ベロや唇・ほっぺの筋肉のトレーニング」などその方に合ったトレーニング方法を提案、再検査を3か月に1回して、改善されたかどうかを見ていきます。
改善しなかった場合は、さらに方法を変えた練習の仕方をご提案をしたり、いいところまで行くまで記録していきます。
ー保険診療ですか?

はい、保険診療です。
ー「結果」だけじゃなくて「理由」を知って、誤嚥(ごえん)などその後起きてくることをイメージする。しかも結果が「感覚」じゃなくて「数値」は明確ですよね。自分がオーラルフレイル、つまり口腔機能が衰えてると知るとガーンって感じですよね。(汗)

そうですね。
「数値」はトレーニングすると改善されていくので、やる気が出ます。
機械を導入したのは最近ですが、義歯(ぎし:入れ歯)の患者さんは明らかに「口腔機能低下症」の方が多い・・・以前は「舌圧が弱いと飲み込みがうまくできません。うまくなってもらうために、こういう方法でやりましょうね」と言ってましたが「数値化」はしていなかった。
「なんとなく」をお伝えしても、響かないんですね。
なので、当院は「口腔機能低下症の検査を行う施設基準」の認定を受けました。
ー対象の年齢層は、子供の手が離れるくらいのお年頃の方でしょうか?

適応は「50歳以上」ですが、50歳に満たない脳卒中やパーキンソン病の疾患を持っている人も対象になります。
健康な方でも50歳以上ならば、誰でもできます。
「口腔機能の低下を見つける」ということが大事なんです。
「歯のクリーニングで来ている時に、お口に水が貯められない」「むせてしまう」などの症状がある方は簡単な質問項目に答えていただく。
検査をすると、ほとんど皆さん該当するんです。

ー(読んでみる)50代の2人に1人?!

そうするとパンフレットを見てくださるんですよ。
ひどくなると最終的には寝たきりになる、健康寿命を延ばせなくなる、そういうことに関わってきます。
自身に覚えがあると、次の回に検査の予約を取っていただく方が多いですね。
義歯の方はほとんど該当します。
うまく飲み込めない、型取り時に「ベロをべーっと出してください」と言っても出来ない、「唇を動かして」と言っても思うように動かせない、そのような方が結構いるんですよ。
3. 実際どんなトレーニングをするの?
ー動かせない?

はい。
「唇をすぼめてウーとやってください」「唇をイーってやってください」と唇をうまく動かせない方は、型取り前に練習します。
イーは出来るんですけど、唇をイーの形のまま(横に開いたまま)ウーっていうんですよ。
唇を中央に寄せて吸うような動きが出来ないんですよ。
合わない義歯であったり、義歯を入れなかったりすると、うまくお話できなかったり、固形物を口に入れて唇をしっかり閉じて噛んで飲み込むこともなく、口唇(こうしん)をあまり動かさなくなる。
もちろん咬合圧はものすごい弱いです、40N位しかなかったり。
では、先ほど検査結果をお渡しします。
あとは、「基準値未満」の項目のトレーニングをしていく感じです。

ー一応あいうべ体操もやってたりはするんですけれど・・・。(もぞもぞ)


「あいうべ体操」もベロの位置も関係するんです。
「い」は、前から奥歯が見えるくらいやります。
「う」は、唇をしっかり閉じた「う」です。
「べ」は、思いっきりベロを出すんです。
ただ「あいうべ」と言っているだけじゃダメなんです。
1個1個きちんとやると、疲れます。
ー適当にやっても効果がないんですね。(汗)

口呼吸でポカン口で舌圧の弱い子のトレーニングで「あいうべ体操」おすすめしたりします。
親御さんにご様子を伺うと、「お風呂の中で 毎日『あいうべ体操』やっています。」っていうんですが、来院した時に確認をすると、フワフワした口の動きで「あいうべ」と言っています。
ただ発音してもあまり効果はないと思います。
先程、検査でやりましたパタカラ体操はアプリ(下記参照)があるので、トレーニングにいいと思います。
→「毎日パタカラ」アンドロイド版
→「毎日パタカラ」iPhone版
舌圧トレーニングに「ガムトレーニング」もあります。
ガムを上アゴにペターって押してつけるトレーニングもあるんです。
ベロの先だけをゴックンと飲み込む時に押し付けて飲むのではなく、ベロ全体を吸盤のように上にベターっとくっつけてないといけないんだけど、そこが違っていたりします。ベロ全体を押し付けているか確認もできるので、いいトレーニングです。
舌の中央にガムをのせて、上アゴの中央に3秒間押しつけて薄く広げる。
舌の筋力をつけるために、1回で円形に広げてください。
舌でガムを上アゴに押しつけたままツバを飲みこむ。
ツバを飲み込んだ後は、ガムが三角形に伸びるのを確認してください。
正しく飲み込めれば舌は芋虫のような動きをして、ガムはのどに向かって三角形に流れます。

ーベロが上についていればいいんだろうと思っていました。


「舌スポット」はこちらですが、舌スポットだけついているのではダメです。
飲み込むときに、ベロ全体を上アゴに押し付けるのです。
4.「ブクブク」できない子ども
ー先生は入れ歯の患者さんをいっぱい診ているから、切実なんじゃないかと。

(突っ込み気味に)切実です。
飲み込みが本当に苦手な方が多くて、うがいでむせたりしていますから。
口輪筋が弱い人は、うがいも出来ないんですよ。
口の中にお水を入れて、水が出ないように唇をすぼめて「ブクブク」が出来ないんです・・・顔を横に振ったりして口の中をゆすぐ方もいます。
子どもさんの中にも、ブクブクがうまくできない子がいます。

ー子供でブクブクが出来ない・・・危機ですね。

危機です。
そういう子は、だいたい口呼吸でポカン口の子です。
非常に舌圧、口輪筋が弱い。
歯並びが悪く、風邪をひきやすい、心身の成長にも影響してきます。
※ブログ「お口ぽかーん(口呼吸)していませんか。」で詳しく説明しております。是非ご覧ください。
「サルコペニア(筋力低下)」も歯科領域の話で一緒に出てくるんです。
口腔機能が低下すると、しっかり食べられなくなる。
おかゆなど食べやすいものだけになって、すごく偏食になる、そうすると栄養不良から筋力が落ちてくるんですよ。
その指標は「ふくらはぎ」で、手を輪っかにして通してみてそれより細いかどうか。
細いとサルコペニアの傾向がある、将来的に歩けなくなって寝たきりになってしまう。
サルコペニアにならないようにする=健康寿命を延ばすために「しっかり噛める」「口腔機能を正常にする」ことが大事なんです。

ー「歯と歯ぐき」は注意が行くけど「口の周りの筋肉とベロ」まで注意が行かないです。そして、そこを歯医者が診てくれるなんて誰も思わないです。(汗)

よく言われます。
「あ、口内炎を歯科で診てもらえるんだ」と言われることもあります。
口内炎は口腔内の粘膜疾患なので、歯科の領域なんですよ。
内科に行ったとか、皮膚科に行ったとか、ビタミン剤と塗り薬だけもらったとか。
口内炎の理由も「歯が原因」なことも多いんですよ。
歯並びとか、歯ぎしり癖とか、ベロを必要以上に動かす癖(舌癖)、ベロを噛んじゃったりとか。
5. 自分のためでもあり、家族のためでもある
ーうちの旦那もそうですが(汗)本人には全く自覚がない・・・。50歳過ぎたら自分の体を大事にするというのは、自分のためでもあり家族のためでもありますよね。

寝たきりでなく、なんでも食べられ、健康で長生きするというのは、本人にとっても家族にとっても幸せなことですよね。
ー「大丈夫だよ」と思わずに、まずは検査をして、現状を確認して、できることは何かを確認して・・・どのみち歯医者に歯のクリーニングに来るのだから、もれなくセットでやればお得ですよね。(笑)「歯」も「歯ぐき」も「口の周りの筋肉」も「ベロ」も4つまとめて全部面倒見ますよ、と。

はい、はい。
義歯の方もそうですね、調整に来ていただいて、ちゃんと機能しているかどうなのか検査をする。
ー入れ歯は「入れたところがスタート」ですもんね。

(実感を込めて)そうなんです。
例えば、KGKデンチャーの「リハビリの義歯」(下記画像>左の透明な入れ歯)は、ただ単に「痛くない」「噛める」だけじゃない。
筋肉を鍛えるための、まさに「口腔機能低下症」を改善するために入れてますよね。
あとはプラスして「飲み方」「ベロの動かし方」「発音のしかた」など、ご本人の苦手なところを「もう少しこうしてみましょうか?」とアドバイスしながら「リハビリ義歯」を使ってもらっています。
そしてファイナル(本番の入れ歯)に備える筋肉づくりをしてもらっています。

ーKGKデンチャーのリハビリ入れ歯は、口腔機能のトレーニングもできるんですね!

お口の機能が低下したまま本番の入れ歯をいれても、うまく使いこなせないです。
それに機能が回復すると、筋肉の形も変わるのでファイナルで変わった筋肉の型を新たに取り、ピッタリした入れ歯を作る事が必要です。
リハビリのときにMFTは絶対セットで必要だと思います。
「ベロをしっかり動かして飲み込む」「何回噛むか?」「飲み込むときはしっかり唇を閉じる」などの指導をします。
「この方は一体、どういう飲み込み方をしているのか?」と実際にお水や食べ物を飲み込んでもらって、ノドがしっかり動いて飲みこんでいるのかなども確認する事があります。
ー歯医者さんなのに、ノドの動きまで診るんですね?!

勢いで流し込んで飲んでいる人もいますからね。
ー歯医者さんで食べ物を食べるなんて、びっくりする方いません?

「いいんですか?」といわれちゃいます。(笑)
あと噛んでいる途中で、どれくらい噛みつぶされているか見させていただくこともあります。
途中経過・・・歯の上に乗っかって、食べた物がちゃんとペースト状になっているか、をチェックします。
ベロで右左の奥歯にちゃんと食べ物を持っていって食べているか唇やベロの動きもチェックします。
左で噛んでいたら、「今度は右で噛んでください」と。
ー「食べる」って、奥が深いんですね・・・。

「口の中に食べ物を入れる→前歯で噛み切る→奥歯ですり潰す」
その際の舌の動きや飲み込む時の舌圧のかけ方、ノドの動き、これらの嚥下までの動きが正常に機能していることが「オーラルフレイル」の予防のために大切なことだと思います。
ー「入れ歯を入れて終わり」じゃなくて、「機能しているかどうかを確認するとこまで含めての治療」なのですね。

口腔機能の検査をして数値化してお見せすると、「こんなに低いんだ」とショックを受けますが、次検査をする時には数値が良くなるよう頑張ってトレーニングしてくださいます。
咬合圧検査で、元の義歯のときは100Nぐらい、リハビリで200Nと咬合力が強くなり、ファイナルに行くときに「400Nに近づきたいから」と。
食事の時、疲れちゃうし時間が掛かるからと、噛むことを億劫がっていたんです。
ー噛むのが疲れる?

ずっと奥歯が無い状態で10年以上過ごしてきた方なので、噛む筋肉が細くなっていて咬合力が弱いんです。
噛まなくても食べられる物だけを飲み込んで過ごしていた方だったんです。
リハビリに入ると、噛んで飲み込むのに筋肉が無いので時間が掛かって、疲れるんです。
ー「しばらく噛んでいなかったよ」という感じですか?

リハビリ入れ歯の完成後、1回目の咬合圧(こうごうあつ)の検査をし、「今はこういう数値ですよ。次回の目標は200にしましょう」と。
「噛む筋肉をつける為、最初はすごく柔らかい食べ物をあえて咀嚼(そしゃく)して、しっかり飲み込む練習をしましょう」とお話しします。
70代後半の方ですが、ちゃんと真面目に練習して、リハビリの最後には約2ヶ月で咬合圧が300Nに達成できたんです。
先日ファイナル(入れ歯)の型取りをしたんですけれど、目標は400以上ですからね。これからもトレーニングが、続きます。
ー先生、入れ歯の話になったら目が「キラン」となりましたよ、本当に。

口腔機能が低下しているのにいい義歯を入れても、ついていけないですよね。
KGKデンチャーの「リハビリ入れ歯」で口腔機能低下症を改善するために数値化=見える化をする・・・大事ですよね。
ー食べる度チェック(下記図参照)もありますけれど、咬合圧のチェックとダブルで出来たら「最強」ですよね。


どちらもやったら「なるほど」となります。
やっぱり数値化するのはいいと思いました。
噛む筋肉を触って「ちょっと固くなってきましたね」と確認したりします・・・
噛んでいない人は、「咬筋(こうきん)」という噛む筋肉が全くないんです、噛んでないから頬のお肉がペラペラ、柔らかくて細いんです。
ー筋肉がペラペラ??

それが練習をすると、お顔がふっくらして来るんですね。
以前は、噛む筋肉を確認したり、お顔がたるんだ感じがふっくらしてくる加減を見ながらやってきましたけど、やっぱり数値化するほうがモチベーションも上がり、しっかり数字の変化も確認でき、良い方法だと思います。
ー知るということが大事ですね・・・今必要な情報しかネットで取らない・・・新聞やテレビは自分が探していない情報だけど「あ、そんなことあるんだ」と気付くことがありますよね。インプットが偏っていていると感じます。

それはすごくそう思いますね。
知りたいことだけしか入ってこない世の中、ですよね。
新聞やテレビで、「へーこんな事もあるんだ」と新しい事を知るキッカケも大事ですね。
ー欲していなくても実は「大事な情報」というのもあって。

ホームページで1人でも多くの人に知ってもらえたらな、と思って今回ページにしました。
あらゆる年齢の方々に、知ってもらいたいです。
最近、テレビでフレイルについて話題にする番組もあったりするので、ご年配の方はテレビを見て、このジャンルの話を割とご存知の方がいます。
知らない方にも知ってほしいと思います。
思い当たる節があったら、躊躇せずにお話ししてほしいと思います。

6. 関連サイト
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やってみよう!お口のトレーニング 舌まわし on Vimeo

