特別ゲストその1 
近藤義歯研究所 生産部部長 小澤 紘史 おざわこうじ

「入れ歯は、どんなところで作っている?」
気になります。
さとう歯科クリニックでは、入れ歯専門技工所「近藤義歯研究所(https://kondogiken.com/
」さんに依頼しています。

「じゃあ、入れ歯を作っているのはどんな人?」
それが分かれば、安心して入れ歯の相談ができます。

今回、近藤義歯研究所で実際に入れ歯を作っている「歯科技工士さん」にインタビューしました。
近藤義歯研究所の近藤社長(BPS国際認定技工士)も同席いただきました。
もう一人の技工士さん、山本さんのインタビューはコチラ

目次

  1. 患者さんのために約25年、研究に研究を重ねた「近藤義歯研究所オリジナルKGKデンチャー」
  2. 「近藤義歯さんで作る保険の入れ歯は、指示書の紙1枚じゃない」
  3. 安定した入れ歯を作る為に開発した「オリジナルジグ」(特許取得済み)がある!
  4. 実際使っていただいて、涙を流し喜んでくださる患者さんもいました

1.患者さんのために約25年研究に研究を重ねた「近藤義歯研究所オリジナルKGKデンチャー」

―さとう歯科さんの待合室の掲示板に入れ歯の案内があります。そこに「BPSデンチャー」とあるのですがそれって何ですか?聞くところによると、ヨーロッパで生まれた入れ歯の技術を近藤義歯研究所で更に進化させたのがオリジナルの「KGKデンチャー」。それは、歯科医師・歯科技工士・患者の三位一体となって製作する入れ歯だそうですが。

【近藤】
BPSは、ヨーロッパで生まれた入れ歯の技術です。
20年前にBPS入れ歯の認定を受けた後、たくさんの方にご満足いただくことを追求し「こっちの方がもっといいんじゃないか?」と改良に改良を加え、もはやオリジナルの「KGKデンチャー」にたどり着いたんです。
「近藤義歯研究所オリジナルBPS」=「KGKデンチャー」とお考えいただければといいかなと。
世界共通のBPS認定があると安心されると思います、それがあることは間違いないと思っていただいて大丈夫です。

―患者さんのために研究に研究を重ねた!という事なんですね。

【近藤】
はい、私たちは患者様が噛めるようになる為には何が必要か、常に自問自答しながら仕事をしています。
カレーに例えば・・・ルーはどの会社のものを使ってもいいけど、最終的に美味いかどうか?ですよね。

―なるほど!ちなみに、近藤義歯研究所というくらいなので(義歯=入れ歯)、入れ歯しかやってないんですか?他にそういう技工所はないんですか?

【近藤】
そうですね、少人数でやっている技工所はあると思いますが、この規模で入れ歯専門技工所はほぼないと思います。
最初は3人からスタートし、ココに移転して17年、創立25年です。

―先日、佐藤先生のインタビューに伺ったのですが、近藤義歯研究所さんをベタ褒めでした。

【小澤】
ありがとうございます。
先日も立ち会いに伺ったばかりです。
被せ物と違い、入れ歯は動く粘膜や筋肉に対しどう安定させるか?が肝です。
また歯の並びや向きも、患者さんの要望を聞いてどう変えていくか?など話し合ってきました。

―患者さんが歯の向きなどリクエスト出来るんですか?歯並びには「正解」があると思うんですが・・・。

【小澤】
稀ですが、若い頃八重歯が気に入っていたので同じようにして欲しいなど、患者さんの要望と僕ら専門家が考えるところをどう折り合いをつけるか?というところはあります。

2.「近藤義歯さんで作る保険の入れ歯は、指示書紙1枚じゃない

―保険の入れ歯の場合、技工士さんにリクエストを出すのは誰ですか?

【小澤】
一般的には先生です。
本来は患者さんの要望を先生が聞いて、先生が私たちに「技工指示書」という紙一枚で伝えます。

―1枚の紙だけで指示するのは素人からすると「いや、そんなのだけで伝えられるのは困る」と思うんです。入れ歯は口の中に入れて毎日飲んだり食べたりする時に使うものなのに、私がどんな人か分からずにこんな紙っぺら一枚でやられたらたまらん、と思ったんです。

【小澤】
確かに患者さんからすればそう思われるかもしれませんが、でもそれが保険制度の限界なんですね。
保険の制度は入れ歯を半年に一度作り変えられる=作り変える前提で成り立っているのが現状なんです。

ちなみに、弊社で作る入れ歯の6割は保険の入れ歯です。

―佐藤先生にインタビューした時に、近藤義歯さんで作る保険の入れ歯は、紙1枚じゃないとのことだったんですが。

【小澤】
そうですね。
保険に関しては、出来ることに制限があります。
自費と保険だと、使える材料がそもそも違いますし、例えばいろいろな情報をいただいたとしても、保険の入れ歯を作るのに落とし込めない部分がどうしても出てきてしまうんです。

弊社ではその中でも様々な工夫を凝らし、入れ歯を毎日作っているからこそ出来る提案をするなどして最善の方法で保険の入れ歯を製作しています。

―なるほど!でも限界はあるのですね。

【小澤】
使用する材料などが違えば現実的に難しいですからね。(残念そうに)

―ちなみに、小澤さんはどうして歯科技工士になったのですか?

【小澤】
もともと理系で、医療関係に興味があったんです。
高校生の時に進路を決める際、職業の説明の本を見ていて、そこで歯科技工士を知りました。
「入れ歯や被せ物を作る仕事、ちょっと面白そうだな」と思って歯科技工士の専門学校の学校説明会に行きました。
そこでちょっと簡単に体験をさせてくれて・・・。

―何の体験ですか?

【小澤】
入れ歯の歯を並べたりとか・・・片方が並んでいて、反対をこっちと同じように置いてみましょう、みたいな感じだったんです。
楽しかったんです、もともとプラモデルとか作るの好きだったんで。

―高校生が入れ歯の歯を並べるって(笑)不思議な光景ですね。ちなみにプラモデルはどういうのを作るのが好きなんですか?

【小澤】
車(ミニクーパー)やバイクのプラモデルとか・・・この会社は車やバイク好きな人が多いですね。

【近藤】
早く本物を買いなさい。(一同笑)

―近藤義歯研究所に来たきっかけは?

【小澤】
一般的な技工所は、立ち合いはほとんどありません。
「指示書」と「模型」だけが送られてきて、会社の中でひたすら作る。
私は、10年ほど前は他の会社で技工をしていましたが、立会いなどなくただ入れ歯を作る技工士でした。
そんな中で数年過ごしている内に、出来た入れ歯を本当に患者さんがうまく使えているのか?とか、ご飯がちゃんと食べられていだろうか?とか思うようになり、自分が作った入れ歯で患者さんの食生活などどんな風に変わっていくのかを見て感じたくなり、近藤義歯研究所に転職したんです。

保険の範囲内だとどうしても限界はあります。
しかし、良い材料を使う自費診療だからいい物が出来るのではなく、それをどう活かせるか、技術・知識があってこそ患者さん一人一人に合うオーダーメイドの入れ歯が出来る事、その技術と知識があるから保険の入れ歯にも活かせる事があるんだと、近藤義歯研究所で一から学びました。

―作り手からすると、保険も自費も境目はない?

【小澤】
そうですね、作り手からすると皆さん同じように作りたいという思いはあります。
当社では入れ歯を作る技術のベースが自費なんです。
保険の仕事であっても、先生からもらった模型に不備がある場合、先生にご連絡してもう一回印象(いんしょう:歯型)や噛み合わせを取ってもらう提案はしたりしますね。

―「これ、ちゃんと取れてないな?」と分かるんですか?また、判断できるようになるまで、どれくらい掛かるんですか?

【小澤】
そうですね、判断できるようになります。
歯科医院さんに患者さんの立ち会いへ行くうちに分かるようになりました。
歯の型取りは、型取りする材料(印象)の温度、混ぜ具合など微妙なことが関わってきます。
材料の管理をしっかりされているか、注ぎ方や水の量を既定の通りにやっているかとかなど微妙な事が多いのです。

―歯科医院さんに立ち合いに行かない場合、仕事の最初と最後がない中間だけの仕事ですね。ストレスじゃないですか?

【小澤】
そうですね。
保険の場合、最初と最後は歯科医院さんです。

立会いをする場合には、型の取り方や嚙み合わせの記録の取り方など先生と一緒に、患者さん一人一人に合わせながら、またもともと歯があった頃の噛み合わせや顎の位置などを患者さん自身に聞きながら合わせていきます。
だからこそ再現性が高くなるんです。

―最初からそこ(立ち合い)にチャレンジしよう!と近藤社長は思ったのですか?

【近藤】
いいものを求めたら、先生も患者さんも私達もいい思いが出来るんです。
例えば、(入れ歯の)再製作になるのが分かっている仕事をするのは意味のないことです。
差し戻しはストレスだし、コスト的にも誰も得しません。
例えば、ラーメン屋で伸びてるラーメンが出てくるようなものです。
作り直しになるのを分かっていて出すのは、みんなストレスですよね。
なので、型取りの際に立ち会ってサポートさせていただいてます。
型のいい悪いは、ラボ(技工所)に持ってきた瞬間に分かります。
だから目を鍛えて・・・何が良くて何が悪いのかを一発で見抜ける力を小澤は受け継いでくれて、いまや目利き役ですよ、再製作にならないようにチェックしています。

―目を鍛えるのにどれくらいかかりますか?

【小澤】
(考える)自分が自信をもって先生に進言出来るのは、6~7年掛かりますね。

―石膏模型(型を形にする粘土のようなもの)にするのはどなたですか?

【近藤】
保険の入れ歯を型に起こすには場合、基本的には院内であれば助手さんや衛生士さんがやるので、助手さんにもアドバイスさせていただいてます。
「近藤さんに聞けばなんでも分かる」と言われると嬉しいですね。
先生方に、入れ歯の専門家としてノウハウを余すところなくお伝えするためにセミナーをして、情報共有しています。

―普通、技工所は入れ歯を作ったら仕事が終わり、だと思いますが調整もあるとそうですがどうなんでしょうか?

【近藤】
僕はそこのところにメスを入れたんです。
通常、技工士は作ったら終わりで患者さんが使用しているところを見る事はありません。
しかし、立会いをした精度の高い入れ歯の場合にはその後の調整までを見届ける事が出来、実際に食事をすると入れ歯がどんな動きをしてそれをどう抑えるかなど、様々な角度から検証・実施を繰り返すことができます。
患者さんよし、歯医者さんよし、弊社よしの「三方よし」が実現できるのです。

量産でないニッチな(狭い)ところはニーズがあり、そこを狙って・・・、を貫いてやってます。

―歯型を取るところ、入れ歯を装着するところ、に、近藤義歯研究所あり、という事ですね。

【近藤】
この咬合器(こうごうき)を見てください、このレベルのマウントが出来る技工士は世の中に多くはいないと思います。

―マウントって何ですか?

【近藤】
歯の位置を設定することです、それには「ルール」があるんです。

―この咬合器は、入れ歯を作る時に使うんですか?

【近藤】
はい、咬合器というのは人間の口と非常に近い動きをするものです。
高い物で30万円を越えますね、ちなみにこれは30万円以上します。
入れ歯が誰にでも合うように、どう平均値化するか?が問題なんです。
模型の歯をどの角度でつけるのかなど、うちはその三次元的関係を合わせる作業をチェアサイド(診察台)と社内で行える仕組みがあるんです。

3.入れ歯を作る「オリジナル下敷き」(特許取得済み)がある!

―それって、脳内で3Dしている?

【近藤】
他社が真似できないオリジナルのジグがあるんです。
私が開発しました。
2006~2014年の間に、バージョンを3つ4つ作って、コストは7~800万円。
普通にやったら、3,000~4,000万円掛かるでしょうね。

―近藤社長は入れ歯オタク、入れ歯ヘンタイ、の域ですね!

【近藤】
はい、私が社内で一番ヘンタイですよ。(真剣)
ここまでやる人は世界にいないと思います。
コレがあることで咬合器に正しく歯を並べる事が出来るんです。

―これが歯の位置ですね?

―小澤さん、最初これを見た時にどう思いました?他の会社にないんですか?

【小澤】
他にはない超オリジナルで、私が入社した時にはほぼ出来上がっていました。
2014年に入社したんですけど、これを見たときに本当にすごいなと思いました。

4.実際使っていただいて、涙を流してくださる患者さんもいました

―素人が見てもどこがスゴイのかが分からない・・・定規みたいな、下敷きみたいなイメージですね。全部接地していると言われても正直理屈は分からないですが、プロの道具を拝見すると説得力あります。では患者さんへの思いを教えてください。

【小澤】
一般的な技工所は、患者さんと話をしたり、入れ歯が入るのを見たり、フードテストと言っておせんべいを食べたりなどを見る機会がなかなかないんです。
入れ歯を作っても患者さんが食べれないとなると、入れ歯を作る本質からかけ離れる。

患者さんがおいしく食事が出来るように、日常生活をストレスなく送っていただけるように作らなければならないという「信念」を持ってやっています。

―頼もしいです!休みの日に何しているか教えてください。

【小澤】
今は子供が小さいので(7歳と2歳)休みはもっぱら子供の相手とか家の事とかをしています。

―立ち合いで、思い出深いエピソードはありますか?

【小澤】
歯医者さんを何軒も行かれて苦労されている患者さん・・・あそこもダメ、ココもダメ、やっぱりこちらもダメだったという患者さんに多く出会います。
私は歯科医院の人間ではないので、警戒心を持たれている患者さんや、ご苦労されてきた分敏感な患者さんもいらっしゃいます。
お会いしてお話しをしていても、距離を置かれる方も多いです。
でも、回数を重ねて、最後に出来上がった入れ歯を入れて「これならしっかり噛めそう」と笑顔になってくださると本当に嬉しいです。
実際使っていただいて、涙を流してくださる患者さんもいました。

―おいくつくらいの患者さんでしたか?

【小澤】
結構若めな方ですね・・・50代後半か60代前半くらいです。
それまで本当にご苦労されていた、そういうのを見るとやっててよかったなと思います。
本当には理解は出来ないのですが、作り手としては気持ちを汲み取って、患者さんにストレスなく使ってもらえるように、喜んでもらえるように作っています。

―ある技工所さんで、入れ歯のプラスチックレジン床(保険の入れ歯)だと熱い飲み物を飲んだときに上アゴで感じられずノドをヤケドする人がいる、なので入れ歯を入れたことのない技工士さんがどれくらい熱が伝わらないかを実験していた話を聞いたことがあります。

【近藤】それをどう改善できるのか?を考えるのが「設計」なんですよ。
口の中のどこが熱さを感じるところなのか?
口蓋(こうがい)という上アゴの部分ですね。
例えば、熱いお茶を飲んだときに上顎前歯の後ろの皮がむけませんか?
その時、他のところをヤケドするよりあまり痛くないと思いませんか?
私は「口腔内の触角(しょっかく)」と呼んでいます・・・ケガしても再生が早いし、味覚も感じやすいし、口内炎にもなりづらい。
そこを入れ歯として露出させる設計を考えました・・・教科書には書いていない方法です。

―当たり前を疑っているんですね。「絶対出来ないなんて誰が決めた?」って、宣伝がありますが。

【近藤】
患者さん一人一人に合わせた「入れ歯の設計書」を作るんですね。

手書きなんです、パソコンでやれる代物ではないんです。
口腔内スキャナーでやろうとしても出来ないこともあるんです、患者さんの顔が全部違うのと一緒で、条件がすべて違うんです。

―この設計書をみると、自分のためにやってくれている、考えてくれているという感じがします。なんで160万円(一番高い入れ歯です)なのか?が、だんだん分かってきました。

【近藤】
困ったあなたに出会うためにやっているんです。
これが書けるようになったら、一流の入れ歯設計士です。
設計書が書けるのは社内でも数名です。

家にも設計があるように、入れ歯にも「設計」があります。
実は、入れ歯の設計が材料や製作工程より一番重要なキモになる所なんです。
家で言えば、更地に何も考えず柱は立てないですし、日当たりが分からないうちに窓の位置は決めないですよね。
入れ歯も口の中全体を見て設計を決めないと、形だけ入れ歯のように見えても、機能(=食べる事)には繋がらないんです。

―こんな細かいことまで書くんですね。

【近藤】
案件のレントゲンの写真を見て、模型を見て、我々技工士サイドのプロの目線から伝える「審査・診断・設計・計画」を先生に「ご提案」している書類なんです。
これを徹底的に鍛えたのが、小澤と山本ですね。

―患者さんのお口をイメージして噛み合わせを「創る」んですね。今流行りの口腔内スキャナーを使わない理由が分かりました。

【近藤】
骨隆起など骨が出ている箇所があれば、それを避けた設計をするんです。
プロとして「優れた提案」が出来るかどうか?です。
入れ歯は「人工臓器」と同じだと私達は考えています。

―目の前のあなたを見て、あなたのために、心を込めて作っているんですね。

【近藤】
はい。
弊社のような技工士がいるという事を、より多くの患者さんや先生に知っていただきたいですね。

―最後に一言お願いします。

【小澤】
入れ歯で困っている方がいたら、ぜひご相談ください!!

インタビュー後記

紙(技工指示書)と模型だけで入れ歯を作っても、ご飯がちゃんと食べられているのかを心配する・・・思いやりは「想像力」だと思います。
そんな想像力豊かで思いやりのある小澤さんなら、安心してお任せできるなと感じました。
また、近藤義歯研究所にお伺いするのは2回目なのですが、若いイケメン揃いで毎回ワクワクします。(笑)
入れ歯の相談で若い男の子と話せる女性の患者さんは、さぞかしルンルンするかも・・・と思ってしまいました。

インタビュー:2022/7/11

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